British Airways のCEOが公式の場で、空港での飛行機搭乗前のセキュリティチェックは意味がないのが多い(redundant)じゃないか、と発言したら、BAA(イギリスやイタリアの空港を運営する会社)の社長も「そうだそうだ」と同意したという話。少なくとも、
・靴を脱がせる
・パソコンを鞄から取り出させる
・液体の客室持ち込みを禁止する
というのは、余計だと言ってます。そんなことしなくても危険は十分に検出できるんですと。さらには、「これらの検査はアメリカに押し付けられてやってるのに、アメリカの国内線ではやってないところもある。」とも言ってます。で、液体の件については2013年には機内持ち込み禁止を撤廃する技術的準備が整う、とも。
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思えば、空港のセキュリティ検査が厳しくなったのはアメリカがブッシュ政権だった頃、9.11の後に以前にも増して厳しくなっていきました。
当時、ブッシュ政権はしきりに国民に、世界中に、危機だ危険だ脅威だと訴えまくってました。入国審査で写真を撮ったり指紋を採ったりしないと危ない、街中に監視カメラをつけないと危ない、危険人物はグアンタナモに隔離しておかないと危ない・・・。
実際、9.11が起きてしまってたわけで、危ないと言われれば否定できないし、説得力もある。
・・・でもこれって、統治する側からするととても便利な手法なんですよね。都合の悪いモノ、コトに対して、強制捜査とか諜報とか身柄拘束とかをやり易くなる。実際、ブッシュ大統領はアフガン侵攻について白紙委任状を議会から取り付けたしね。で、国民は安全のためなら仕方ない、と思うし、積極的に協力さえする。
アメリカの産業のかなりの部分を占める軍産共同体にとっても、市場を拡大する追い風になる。戦争に及ばなくても(実際には及んだんだけど)、様々な治安維持、軍事関係のデバイスが売れる。予算も取れる。
そして何よりも、外部からの脅威に立ち向かわなければ、というときにはアメリカ人は大統領の元に団結する。国家の危機に際して、大統領に反対することは難しい。大統領の支持率にもプラスです。
んなもんだから、あの政権は国民が、世界中の人々が、危機の瀬戸際に立っているのだと信じるように、折に触れて人々を脅していました。まあ、実際にまったく安全な世界に生きていたわけではないですけど、実際の脅威以上に戦略的に人々に恐怖感を忘れさせないよう努めたように見えますよね。「そんなに危機が迫ってるの?」なんてとても口にできない空気を作ってた。
空港のセキュリティチェックはその手段として一番使い易いものですよ。テロの脅威があるのだ、危険なんだということを忘れさせないため、検査を煩雑に、厳しくしていく。パソコンを取り出せ、スーツケースはカギをかけるな・・・。そうすると、みんな空港を通るたびに、世界は危ないのだ、脅威に満ちているのだ、と再確認させられる。ホントはどれくらい脅威に満ちているのか分からないし、一般人には知りようもないんだけど、そうやって「テロの脅威、危険、危険」と刷り込まれていく。
今回のBAのCEOの発言は、やっとその呪縛が解けたというか、なんかおかしいんじゃないの?っていうことがやっと言えるようになった、ということなんだと思うんですよ。みんな、鬱陶しいなぁと思っても、「安全のため」と言われれば反対のしようがない。検査を厳しくすることには賛成できても、緩和については口を開きにくい。それがやっと、冷静に考えたら無意味なんだから止めてもいいじゃん、と、当事者がやっと発言できた。そういうことかと。
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なんて考えてたら、国際ニュースで「イギリスからアメリカに向ってる飛行機にイエメンからの不審な荷物が!」なんていうニュースを速報で流している。どこまで本当なのか、どのくらい取り越し苦労なのか知らんけど、BAのCEOの発言を牽制するようなタイミングの良さ。
なんだかなぁ。